カシミヤを知る
刈った毛ぜんぶではなく、産毛だけ
東京都クリーニング生活衛生同業組合の解説によれば、カシミヤはカシミヤ山羊の毛のうち、刈り取られた毛から産毛だけを選別したものを指します。繊維は細かく、やわらかく、光沢があり、保湿性に優れていると説明されています。
高価な理由は、この「産毛だけ」というところにあります。同組合は、産毛はカシミヤ1頭から150g〜200gしかとれないため希少価値が高く、極めて高価になると書いています。そのうえで、セーター1枚にカシミヤ4頭、コートは30頭が必要という具体的な数字まで示しています。1着の服が何頭ぶんかで語られる素材は、そう多くありません。
ウールとは別枠の「獣毛」
毛には、羊から刈り取った羊毛と、羊以外の動物から刈り取った獣毛があります。カシミヤ、モヘヤ、アンゴラ、キャメル、アルパカ、ビキューナなどが獣毛にあたります。同組合の解説では、これらの動物が山岳地帯や乾燥地帯の厳しい環境で体温を保つために身につけた毛であることが、そのまま繊維の性質になっていると説明されています。
消費者庁の指定用語表では、カシミヤは動物繊維の「毛」の一種として指定用語が定められていて、表示は「毛」または「カシミヤ」となります。タグに「毛」とだけ書かれている場合、それが羊毛なのかカシミヤなのかは分かりません。
「嗜好品」という位置づけ
ここが、この素材のいちばん実用的な話かもしれません。同組合は獣毛製品について、羊毛とは違いやわらかい風合いや光沢を楽しむ、いわば嗜好品であり、実用的な衣類ではないため、着用やメンテナンス・クリーニングには特別の注意が必要だと明記しています。
具体的に挙げられている注意は次のとおりです。
- 過激な着用や運動を避ける
- カバン、バッグ、リュックなどで擦らない
- 着用時の組み合わせによっては、他の衣類に毛が付着することがある
- 光沢を戻し毛玉の発生を抑えるため、着用後はやわらかなブラシで毛並みの乱れを整える
- 連続着用を避ける
- 虫害を受けやすいため、保管の際は防虫剤が必須
- 風合いを損ねるため強いクリーニングができない
つまり、気軽に洗濯やクリーニングができないぶん、そもそも汚さないように着る必要がある素材です。「休ませながら着る」「ブラシをかける」という手入れの作法は、贅沢な習慣ではなく、この素材の構造から来ている必然だと分かります。
毛玉は、高級品だからできないわけではない
毛玉について同組合は、生地表面が摩擦されると繊維が引き出され、これが絡み合うことで発生すると説明しています。肘や腰まわり、抱えた鞄が当たる部分に多いのはそのためです。また、撚りの少ないやわらかな風合いの製品ほど着用摩擦で毛玉が生じやすいとされています。
カシミヤはまさに、細くやわらかい繊維をふんわりと使う素材です。毛玉ができることは品質が低い証拠ではなく、摩擦を受けた場所に起きる物理現象だと理解しておくほうが、扱いを間違えずに済みます。できてしまった毛玉は、指でつまむと繊維をさらに引き出してしまうため、ハサミで切るか毛玉取り器を使うよう勧められています。ただし除去すれば生地は徐々に薄くなります。
静電気と肌当たり
カシミヤは、帯電列の一次資料に個別の記載が見当たらない素材です。本サイトでは、ウールやシルクと同じたんぱく質系の繊維であることから、プラス側に寄せた傾向値として扱っています。試験値ではなく、より静電気が起きやすい側に寄せた整理であることを、物性データ表にも明記しています。
肌当たりについては、繊維の太さや生地の仕上げによって刺激を感じる場合があります。カシミヤは細い繊維の代表格ですが、感じ方には個人差があります。
向いている服・気をつけたい場面
マフラー、ストール、上質なニットのように、やわらかさと光沢を楽しむ用途が得意分野です。毎日ヘビーローテーションで着る服や、鞄を肩にかけて擦れる着方には向きません。重ね着の組み合わせは、チェッカーで確かめられます。